霜山寛治
漫談/ペルシャ湾なんていらない
アクセス数:162 サイズ:18.1KB(Long) 投稿日時:2016年12月15日 01時35分 更新日:2016年12月15日 01時35分 投稿者:BONBORI
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ガールフレンドが欲しいなぁ。と思って僕は神社に向かった。
お賽銭箱の中に僕の大好物の挽き肉をギッチギチに詰め込んで、神様に祈った。神様は挽き肉なんて食ったことないだろうからこの味に舌を巻こと間違いないだろう。
「神様お願いします。僕にガールフレンドをください。ガールだったら最早人間じゃなくても、犬でも魚でも花でも、終いにはペルシャ湾でも大丈夫です」
緊張して途中から自分で何を言ってるのか分からなくなった。けどまあいいかと思いながら、僕は満足して神社を後にした。


朝のニュース:速報です。今日の朝、ペルシャ湾が行方不明になりました。関係者の話によると「目を離した隙にいなくなっていた」とのことです。現在国際警察はペルシャ湾の動向を調査しているとのことで……。


土砂降りの中アルバイトから家に帰ると、アパートの前で誰かが倒れていた。
どうしたのかと思って駆け寄ってみると、それはデカイ水の塊で、というかそれはペルシャ湾だった。
「大丈夫か!こんな雨にうたれていたら風邪をひくぞ!」
僕が呼びかけても反応はなかった。ペルシャ湾の肉体にたくさんの雨粒が落っこちてビチャビチャと音を立てた。
仕方がないのでペルシャ湾を抱えて、家の中に入った。ペルシャ湾をそっと玄関に置くと、昨日片したばかりの僕の部屋があっという間に水びだしになった。
それにしても綺麗な女性だ。と僕はペルシャ湾を見て思った。どこまでも瑞々しく、涼しげで爽やかで麗しい。僕が彼女の身体をまじまじと見ていると、ペルシャ湾は意識を取り戻したみたいで、ゆっくりと体を起こした。
「あなたが、助けてくれたの?」
じっとこちらを見て彼女は言った。僕はどきどきしながらも、紳士的に振舞おうと思い、まず彼女にシャワーを浴びることを勧めた。
「うん……そうだね。雨でずいぶん濡れちゃってるし」
彼女がその場で濡れた服を脱ぎ始めたので、僕は慌てて自分の部屋に戻った。
ペルシャ湾に羞恥心はないのだろうか。ペルシャ湾といえど女性の裸を見るのは初めてだったので、僕の身体は激しく興奮した。
彼女がシャワーを浴びてる間、自分のベットに座ってこの状況を考えた。
これはやはり、昨日神様に祈ったことが本当に叶ってしまったのか。まさかあの中で一番難易度の高いガールのペルシャ湾を用意してくれるなんて。神様はやっぱりすげえと思い直した。
テレビをつけるとペルシャ湾がその場から突如いなくなったことがどの局でも報じられていた。これは大変なことになったなと僕は冷や汗をかいた。


「ごめんなさい。急にお邪魔してしまって」
しばらくするとシャワーを浴びてサッパリしたペルシャ湾が僕の部屋に入ってきた。
彼女はサイズの合わない僕の服をグチョグチョに濡らしながら着ていた。そのシチュエーションに思わず興奮してしまった。
「いやいいよ。いくらペルシャ湾といえど雨にうたれて倒れていたら放っておけないさ。それより……大変だね」
僕はテレビのニュースを指さした。彼女は申し訳なさそうに俯いて、部屋に水をこぼしながら言った。
「やっぱり私を知っていらしたのね」
「まあ、君のことは全世界のほぼほぼの人が知っているよ。よければ、何でこんなことをしたのか教えてくれないか?」
ペルシャ湾は僕の隣に座った。なんだか、絶景だなと。そんなことを思ってしまった。
「私は、生まれた時からずっとペルシャ湾として育てられてきたの。ペルシャ湾の生活って本当に大変で、一歩もその場から動けない厳しい毎日だったわ。
 だけど私も十八歳の女の子なの。そんな暮らしにうんざりしちゃって、気がついたら私、家出しちゃっていたんだ。
 外の世界は本当に楽しいことがいっぱいで、だけどお腹が空いちゃって、倒れちゃっていたの。だからお願い!」
彼女は急に僕の方に振り向いて手を握った。その動きがあまりにも唐突だったから彼女から飛び出した水がバシャーッと僕にかかった。
「警察には言わないで。お願い、何でもするから!」
ああ神様ありがとう。たとえ相手がペルシャ湾だとしても、こんな湾ダフルな出会いを僕にくれて。
「そうか。じゃあ一つお願いを聞いてもらおう」
自分の顔にかかった水を手で払い除けた。キラキラとした水滴が、彼女の肉体に飛び散った。
「ペルシャ湾、君はこれから僕と一緒に暮らすんだ。いいね?」
ズキューン。彼女が恋に落ちる音がした。ついでに水もダバーッと溢れた。ペルシャ湾は最早メスと化し、僕にイチコロで釘付けだった。
「ええ、喜んで!私の王子様!」
よっぽど嬉しいのか彼女の中の水がダバダバ溢れた。部屋の家具がプカプカ浮かび始めた。
僕らはお互いに見つめ合い、溺れるような口づけをかました。というか本当に溺れた。家具と一緒に僕もプカプカ浮かんだ。死ぬかと思った。


こうして海老名住まいの王子様、霜山寛治と家出をした湾ぱくお嬢様、ペルシャ湾との恋物語が始まった。
身分の違う者同士の許されざる恋愛みたいで、僕は凄く興奮した。どうやら僕はシチュエーションに弱いらしい。
同じベットの上で夜を過ごす日々。彼女を抱くとひんやりして気持いい。だけど油断すると溺れかけるので、眠れない日々が続いた。
朝になると「おはよう」と彼女が笑いながら言って、僕の目の前で着替えるのだ。
思わずうっとりその姿に見とれてしまって。いつだって僕は朝食のハンバーグを作りすぎてしまうのだ。今日も60人前作ってしまった。
まあ二人で食べるからいいかぁと思っていたが、ペルシャ湾はどうやら水しか口にしないようで、彼女がガバガバと大量の水を飲んでいる横で、僕はハンバーグを60人前食べるのだ。おかげで100キロ太った。
昼になるとこっそり海老名の街に出て、デートをした。美しいペルシャ湾を隣にして歩いていると、気分が良かった。
時々道行く人に「もしかしてペルシャ湾ですか?」と尋ねられるが、その度に彼女は「いいえ、駿河湾です」とやんわりゴマかした。
どうやらペルシャ湾は庶民の暮らしが理解できないのか、服屋に入って綺麗な服やアクセサリーを見るたびに、なんでも買ってくれと僕にせがむのだ。
「おいおい、こんなのを買ったって、君は全部濡らしてしまうだけじゃないか」
僕がそうはぐらかすとペルシャ湾はプクーッと頬を膨らませ、ビシャーッと服屋を濡らすのだ。
このままではマズいと思い、仕方なく僕はせがまれたものを買い与えるのだ。
かわいい洋服に身を包んで喜びのあまりくるくる回りながらビシャビシャ服屋を沈める彼女を見ると、幸せを感じるのだ。


そんなこんなで甘甘な生活が一年続いたが、そろそろこの生活がキツくなってきた。
ペルシャ湾と暮らすと床がぬかるんで抜け落ちるので、一ヶ月ごとに引っ越さなければならなかったし、
街に出るたびに服を1000着ぐらい買うからそのお金もとんでもねえし、
それに彼女は水をばかすか飲むので、この一年で月々の水道代は二億円に跳ね上がっていた。僕の体重も600キロに跳ね上がっていた。これはちょっとショック。
さて、どうしたらいいだろう。昔電車にひかれそうになっているオバマを助けた時にもらった6兆円も底をつきかけている。
一度家でゴロゴロビチョビチョしている彼女に「働いて見る気はないかい」と訪ねたことがあるが、「この国にペルシャ湾が働ける場所はあるの?」と返されて、そういえばないなぁと僕は頭を抱えてしまった。
このままでは破産してしまう日も近い。僕はう湾と叫びたい気持ちに襲われた。

そういえばここ最近僕は三人の女の人と仲良しになった。
まずは行きつけの服屋の店員の貝沼さん。彼女は美人ではないが生肉が大好物で、いつも肉をじゅるじゅるしゃぶりながら接客している。彼女の店で買う服はいつも血がついている。僕と気が合いそうだった。
次にアルバイトの後輩の坂中ちゃん。彼女は美人ではないがとっても元気で、バイトをそっちのけでいっつも50メートルくらいジャンプしている。後輩というシチュエーションが僕を激しく興奮させた。
最後に隣に住んでいる未亡人の葉波さん。彼女は美人ではないがいつも吸いづらそうな息をしている。未亡人というシチュエーションが僕を激しく興奮させた。
この三人の女性はどうやら僕に気があるようで、いっつも熱心にアプローチをかましてくるのだ。
「お客さんの彼女さんひどいですよねじゅるじゅる。いっつも服をたくさんじゅるじゅる買わせてじゅるじゅる。私が彼女じゅるじゅるだったら絶対お客じゅるじゅるさんにそんなことじゅるじゅるじゅるじゅる」
「先!輩!もし!私!が!60!メー!トル!まで!飛べ!る!ようになったら!私!の!こと!好きに!なって!くれ!ああ!ジャン!プ!気持ち!いい!いい!いい!!」
「コヒューーーーーーお隣さんコヒューーーーーーーあなたコヒューーーーーーー最近コヒューーーーーお疲れじゃコヒューーーーーないコヒューーーーーーーーー助けて苦しコヒューーーーーーー」
僕はこの三人のアプローチに心が激しく揺らいだ。
だって彼女たちは美人じゃないしなんらかの欠点抱えているけど、人間なんだもの。ペルシャ湾じゃないんだもの。
未来のことを考えると、湾と一緒に暮らす生活に希望が見れなかった。僕は決心した。
ペルシャ湾なんていらない。ペルシャ湾なんていらない。
そのことを伝えようと僕は勢いよく自分の家に戻った。


「絶対別れないんだから!」僕の話を聞いたペルシャ湾は激怒して水を激しく放出した。
その水の量はとてつもなく、僕の家を一瞬で沈めて、海老名の街全体にまで広がった。
「別れるというのなら、このままアナタごとペルシャ湾にしてやる!」
僕はガバガバ溺れた。さすが生まれてからずっとペルシャ湾として育てられてきた女の子だ。本気を出すとこんなに強いのか。
だけど、それも予想の範囲内だ!
「今だ、やってしまえ!」
「はいよ!」
僕の掛け声と同時に上空のヘリコプターから、太平洋先輩が落っこちてきた。
昨日友人のオバマくんに太平洋先輩の力を借りたいと電話で頼むと、快く受け入れてくれたのだ。
バシャーンとぶつかる太平洋とペルシャ湾。彼女は激しく抵抗したが、相手は史上最強の海、太平洋。田舎貴族であるペルシャ湾に勝てる見込みはなかった。
「どうして、私はあなたの願いのかたまりなのに、どうして!」
そう叫んで、ペルシャ湾は太平洋の中に取り込まれた。
事が終わると僕は太平洋先輩にお礼を言った。困った時はいつでも読んでくれよ!と言って、彼は自分の住む場所に戻った。全く頼もしい男だ。


さあ、これで邪魔者はいなくなった。早速アタックしに行こうと僕は女性たちの所へ向かった。
まずは隣に住んでいる葉波さんのところに向かった。インターフォンを押すと、相変わらず息苦しそうな彼女が出てきた。
しかし目をこらしてよく見ると何か違和感があった。彼女の姿がどうにも人間に見えないのだ。
そう、それはまるで花のような。というか花そのもので、というか葉波さんは薔薇の花だった。
なんてことだ。僕はバラバラに飛び散る彼女を見ながら落胆した。危うく、花と付き合う所だった。これではペルシャ湾と別れた意味がない。
僕は薔薇の花を持ちながら今度は後輩の坂中ちゃんの所へ向かった。しかしなんてことだ。彼女は相変わらず飛び跳ねていて、ピチピチ飛び跳ねていて、
よく目をこらして見ると、彼女は魚だった。というか鯖だった。いい具合に油が乗っていた。
まさかと思って僕は薔薇と鯖を抱えながら服屋の貝沼さんの所へ向かった。
よく目をこらして見ると、彼女は犬だった。生肉をむさぼっているチワワだった。かわいい。すごくかわいい。本当にかわいい。


「神様お願いします。僕にガールフレンドをください。ガールだったら最早人間じゃなくても、犬でも魚でも花でも、終いにはペルシャ湾でも大丈夫です」
なんてことだ神様の野郎。僕のお願いを律儀に全部叶えやがった。
まさかみんな人間じゃないなんて。これではペルシャ湾と別れた意味がないじゃないか。
むしろ他の子と比べると、ペルシャ湾が一番マシだったんじゃないかと思えてくる。僕は彼女に全力で謝りたい気持ちに襲われた。
薔薇と鯖とチワワを抱えながら力なく家に帰ると、付けっぱなしのテレビから衝撃的なニュースが流れてきた。


昼のニュース:速報です。行方を眩ませて一年が経ったペルシャ湾が先ほど見つかりました。彼女はラスベガスでずっと遊んでいたようで、お金が尽きたから家に帰ってきたとのことです……


なんだって。ペルシャ湾はずっとラスベガスにいた。ならば今まで僕と一緒に暮らしていたペルシャ湾は誰だったんだ。
感じたことのない戸惑いに襲われていると、インターフォンが鳴った。誰かと思って出てみると、その声の主は間違いなく、今まで僕と一緒にいたペルシャ湾だった。
「太平洋に、私は実はペルシャ湾じゃないって言ったら、返してもらえたんだ。ニュース見たよね。ごめんね今まで騙しちゃって」
「ああ、君は一体誰なんだい?」
「あなたが祈った神様はね、ペルシャ湾を持ってくる力はさすがに無かったの。だから神様は別のものをペルシャ湾にして、アナタに会わせたの。それが私なの」
「そうか。こちらこそごめんよ。君をあんな酷いやり方で遠ざけてしまって。僕は君と仲直りがしたい。こんな僕を許してくれるかな」
「ええもちろん。だけどね、今神様の力が切れてしまって、私は元の姿に戻ってしまっているの。こんな私でも、愛してくれる?」
もちろんだ。僕はそう言ってドアノブに手をかけた。だけど心の中は不安で満ちていた。彼女の正体は、一体何なのだろうか。
落ち着いて深呼吸して、覚悟を決めて扉を開けた。


そこにいたのはあまりにも豊満で、あまりにも生々しい肉体をしていて、というかそれは肉体そのもので、
というかそれは挽き肉だった。
「うわああああああ挽き肉だあああああ!!!!!」
僕は喜びのあまり、叫び声を上げて彼女を抱きしめた。
まさか彼女の正体が、僕の大好きな挽き肉だったなんて、こんなにも嬉しいことがあるか!
「いいの?こんな私でも、受け入れてくれるの!?」
挽き肉は涙を流しながら言った。彼女はそこから感極まって、全身から大量の肉汁を流した。
「ああ、僕は挽き肉が大好物なんだ!」
チワワが嬉しそうにワンワン吠える。鯖も祝福するかのようにぴちぴち跳ねる。僕たち二人の間に薔薇がひらひら舞い落ちる。
ついに、僕は、本当に心の底から愛せる、ガールフレンドを見つけたんだ!僕は涙を流して、彼女に言った。
「よおし。今日はお祝いだ!ハンバーグを作るぞ!」
「いや、共食いになるから挽き肉食えない」
なんだかおかしくて、僕と挽き肉はいつまでも笑いあった。
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