霜山寛治
漫談/オイルパニック・ビックハリケーン
アクセス数:173 サイズ:15.4KB(Long) 投稿日時:2016年11月22日 01時53分 更新日:2016年11月22日 01時53分 投稿者:BONBORI
2016年12月投票ランキング1位(42pt)
「カルフォリニアロール竜巻さん?」
海老名の駅前で、見知らぬ若い女性が僕にそう語りかけてきた。
いや、本当に僕に語りかけてきたのだろうか。僕の名前は霜山寛治だし、そんな名前は今まで聞いたこともない。
いえ、違います。と動揺しながらも答えたが、それでも彼女は僕の顔から目を離さなかった。
すると彼女の表情はみるみる満面の笑みになり「やっぱりカルフォルニアロール竜巻さんだぁ!」と叫んで、抱きついてきた。
いいえ、人違いです!と僕は慌てて言ったが、彼女は「カル竜さん、カル竜さん!」と壊れたレコーダーのように繰り返すばかりで僕の声を聞いてくれなかった。
そして彼女は僕の腰に巻いてあるベルトに手をかけ、そのまま一気にズボンとパンツを下ろし、ついでにTシャツも脱がされた。
瞬く間に全裸になった僕に彼女は「カル竜ぅうう。カル竜ぅううう」と言いながら長い長い口づけをした。ストロベリーの味がした。
僕は頭が混乱して、思わずその場で跪いた。彼女はそのまま僕の首筋から胸元にかけての部位をしゃぶしゃぶぶしゃぶしゃと舐め始めた。
しかしそのまま乳首を舐め始めた瞬間、彼女の表情が突然曇り、僕の顔を見た。
「アンタ……カルフォルニアロール竜巻、じゃ、ない?」
僕が黙って頷くと、彼女は泣き出しそうな表情になり「裏切られた、裏切られた!」とヒステリックに怒鳴って、その場をスッタスッタと去ってしまった。
泣きたいのはこっちのほうだ、と思いながら服を着ていると、背後から「カルフォルニアロール竜巻じゃね?」と声をかけられた。
恐る恐る振り向くと、そこには満面の笑みの若い男性がいた。
いいえ、人違いですと言う前に、「カル竜、カル竜だああああ!!」と叫んで、僕に抱きつき、服を脱がし、長い長い口づけをかました。ストロベリーの味がした。
あまりにもそれが自然な流れだったので、僕は無抵抗で彼にされるがままだった。
「カル竜ぅうう、カル竜ぅうう」と喘ぐ彼の舌は口から首筋に伝い、僕の胸元にまでやってきた。
しかしその舌が乳首にまで来た瞬間、彼の表情は曇り、僕の顔を見上げた。
「アンタ……カルフォルニアロール竜巻、じゃ、ない?」
黙って頷くと彼は僕の頬を叩き、「裏切られた、そんなヤツだとは思わなかった!」と叫びながら走り去った。
僕はなぜだか無性に寂しくなって、裸のまま駅前で泣き崩れた。


その後も街を歩くたびに、色々な若者から「カルフォルニアロール竜巻さん?」と声をかけられた。
コンビニの店員、元気な小学生、穴を掘っている兄ちゃん、カラオケ帰りの女子高生集団、穴を掘っている兄ちゃん、なぜか海老名にいた染谷将太、穴を掘っている兄ちゃん。
その全員が僕に抱きつき、服を脱がし、ストロベリー味のキスをして(染谷将太はキウイ味だった)首筋から胸元にかけて舐め、そして乳首を舐めた瞬間に僕がカル竜ではないことに気づき、ぷりぷり怒りながら帰っていくのである。
カルフォルニアロール竜巻とは誰なのか、なぜみんな服を脱がすのだろうか。みんな僕の乳首で何を理解したのか。様々な疑問が頭の中で渦巻いた。
ようやく僕のアパートに着いた時は、服はもう無かった。
へとへとに疲れながらドアを開けて、僕はあのオイルショック以来、二十年ぶりに自宅の中に入った。
そう、僕は二十年間投獄されていたのだ。



熱したフライパンにはまず油を敷かなければ落ち着かないように、僕という人間はまず僕自身に油を敷かなければ落ち着かない人間だった。
生まれたとき、僕の体を包んでくれた産婆の手が、なんかやたらとテカテカしていた。その時の光景がどうしても忘れられなかった。
小さい頃は灯油を全身にぶっかけて、そのままツルツル転がっていることが何よりも楽しかった。油の中に包まれるという感覚が、なぜだか僕を安心させた。
大人になっても油の欲求はたまらなく膨らみ続け、仕事から帰ってくると、風呂に入る前に真っ先に灯油を浴びた。油まみれにならなければ、自分を自分として保てない感覚があった。
そんなある日のこと。車にガソリンを入れている時、僕はどうしても気持ちが抑えられず、レバーを自分の方に向けて、そのままガソリンを浴びてしまった。
何リットルものガソリンが僕を襲うあの感覚は、もうなんと言うかものスゴかった。
その後僕はガソスタの店員に通報されてしょっぴかれて、懲役二十年を判決された。なんか思ったより重い罪でビックリした。
僕はこの事件を、オイルショックと呼ぶことにした。
今度少しでも油を身体にかけたら、もう二十年懲役を与えるとまで言われた。僕はしぶしぶ、油をかけない生活を受け入れた。


パソコンを操作すると、カル竜の情報があっという間に出てきた。
どうやらこの二十年の間に、ユーチューバーという存在が現れていて、彼がまさにそれだった。
相当人気のあるユーチューバーらしく、どの動画も再生数が多い。
特に「カルフォルニアロールにアボカドの代わりに巻かれてみた」という動画は7800兆再生を叩き出していた。
クリックすると叫びながら酢飯と海苔に巻きつかれているカルフォルニアロール竜巻の様子が再生された。
出所したてのステータスでは何を見ても面白いので大爆笑した。
その上驚いたのがこのカル竜、顔や立ち姿まで僕と瓜二つだった。
確かにこれでは見間違えるのも仕方がない。色々疑問がありつつもとりあえず納得した僕は、そのまま二十年ぶりの酸っぱい布団に潜り込んだ。


そして次の日もそのまた次の日も、僕は道行く人々にカル竜と間違われて、皆が服を脱がしキスをして、正体に気づき怒るというパターンをローテされた。
一週間もその状況が変わらないので、僕はしばらく外出するのをやめようと決心した
しかしそう決心して帰宅した日、家の電話に一本の留守電が入っていた。着信元を見て驚いた。カルフォルニアロール竜巻からだったのだ。

カルフォルニアパワーで君の電話番号を調べ出したよ。
どうも、カル竜だよ。7800兆再生のカル竜だよ。
君、7800兆再生ってどんだけ凄いか分かる?
十億再生でも通りすがりの人にキャーキャー言われるくらいの人気者だっていうのに、7800兆再生となればもう、通りすがりの人がディープキスしてくるのは当たり前だし、全身をくまなく舐めだすのも当たり前なんだよ。
もう僕は脱がされるのも面倒だから服を着るのをやめたよ。
だけどそんくらい人気者だった僕が、最近「カル竜の偽物に騙された」っていう噂がネットに広まってから、信頼度がガタ落ちして人気も急低下してしまったんだよ。
7800兆再生だった僕が、この前上げた新しい動画では3再生だったよ。
服を着ずに外に出たら普通に逮捕されてビビったよ。
だから、今日は君に決闘を申し込みに来たんだ。
どちらが本物のカルフォルニアロール竜巻か、一ヶ月後の海老名駅前で対決しよう。
君が勝ったら君が本物のカルフォルニアロール竜巻だと認めてあげるよ。僕は潔い男だからね。
だけど君が負けたら、僕を騙った罪で懲役7800兆年の罰を受けてもらう。
それでは、一ヶ月後を楽しみにしているよ。
カルフォルニアボンバー!!

留守電がそこで切れると、電話機は勢いよく爆発した。
なんてことだ。せっかく20年ぶりにシャバに帰ってきたのに、このままでは7800兆年投獄されてしまう。
なんとしても一ヶ月後の対決に勝たなければいけなくなった。しぶしぶ僕は本物のカルフォルニアロール竜巻になる特訓を始めた。


情報を集めていく内に、カルフォルニアロール竜巻は非常に酸っぱい味のする人間だというのが分かった。
動画ではいつも酢飯にくるまれているためか、体中の至るところから酸味が漂うのだそうだ。
そう言えば今、僕の身体はとても酸っぱい匂いを放っている。
20年間牢獄の中でシャワーも浴びずにポンカンを栽培し続けていたせいだろうか。
この酸っぱさがカルフォルニアロール竜巻と似ているの言うのなら、僕がするべき努力はただ一つだ。町の人間が僕を味わって唯一首を傾げた部位、乳首を酸っぱくさせることだ。
それから僕は一ヶ月間、乳首にお酢をぶっかけ続ける生活を始めた。
酢を身体にぶっかけていると、灯油を身体にぶっかけていた時代を思い出して、もうあの頃には戻れないんだなぁと、なんだかちょっぴり悲しくなった。
この生活を続けている内に、自分は確かにカルフォルニアロール竜巻になっていった。カルフォルニアボンバーもなんか出せるようになった。




そうして一ヶ月が過ぎ去り、決戦当日。
海老名駅前には7800兆人の人が大歓声を上げていた。
つんざく会場に怯えながらステージに上がると、既にそこにはカルフォルニアロール竜巻が服を着ないでいた。
「さあ、決めようか!本当のカルフォルニアロールを!」

そう言うとカル竜は客席に飛び込み、客に自分の全身をくまなく舐めさせた。
誰もがカル竜を舐めようと必死に舌を伸ばし、もみくちゃになった会場は熱気を帯び始め、ついにはそのエネルギーでカル竜を中心に巨大な竜巻を起こした。
負けるものか。僕も服を脱ぎ捨て、7800兆の会場に飛び込んだ。
みんなが必死に僕を舐めてくれて、特に乳首に関しては嬉しそうに舐めてくれて、会場はさらに盛り上がり、そのエネルギーで巨大な竜巻を起こした。
僕とカル竜。二つの巨大な竜巻はぶつかり合って、ベイブレードみたいにキンキン弾かれ、勝負はひたすら拮抗した。
だけど僕が思い切って、彼の乳首の所に飛び込むと、不意を突かれたカル竜はそのままバランスを崩し、場外に弾き飛ばされてしまった。
(後に批評家が書いた記事「霜山寛治の乳首はカル竜よりカル竜だった。それが勝因」)

勝った。
僕は勝ったんだ。
僕は、カルフォルニアロール竜巻なんだ。
「カルフォルニアロール竜巻!」
会場で一人の女の子が言った。あれは、最初に僕に口づけをした女の子だ。
「カルフォルニアロール竜巻!」
「カルフォルニアロール竜巻!」
「カルフォルニアロール竜巻!」
そして会場全体が僕をカル竜だと認め、その地球が揺れ動くばかりの歓声は、いつまでも止みそうになかった。
「くぅ~!お前には負けたぜ!お前が真のカル竜だ!」
戻ってきたカルフォルニアロール竜巻もそう叫んだ。
僕はその歓声に感極まって、震えが止まらなかった。

いや、待てよ。
本当に、僕はカルフォルニアロール竜巻でいいのだろうか。
「霜山寛治」であることを捨て「カルフォルニアロール竜巻」として生きる僕を、果たして僕は許すのだろうか。
これからのカルフォルニアロール竜巻の人生を思い浮かべる。酢を浴びて、酢に浸かる毎日。ああ、そんなのは考えただけで寒気がする。
僕が本当に浴びたいのは、ぶっかけられたいのは……!!

すると会場の奥から、何かの液体が思いっきり噴出しているのが見えた。
そこは僕の家の近くで、いつも若い兄ちゃんがひたすら穴を掘っている場所だった。
あれは、もしかして……。

僕はステージを降りて、7800兆の観客を押しのけて走り出した。
嫌だ。僕は、捨てたくない。どんなにどうしようもなくたって、霜山寛治であることを捨てたくない!
人気者にならなくてもいい、また投獄されてもいい、それでも僕は、油を浴びたいんだ!!

僕は噴出する液体、もとい石油の中に、勢いをつけてダイブした。
20年ぶりの油の感触に色々な感情が湧き上がって、そのエネルギーでさっきよりも巨大な竜巻が発生した。
7800兆の人間がポカンとした表情で僕を見上げた。
いいんだ、カルフォルニアロール竜巻じゃない。これが、僕なんだ!

「僕は、霜山寛治!カル竜じゃない、僕は、霜山寛治なんだ!」

泣きながら僕は叫んだ、竜巻を起こしながら、観客全員に油をまき散らしながら、僕は泣き叫んだ。
「……霜山寛治」
すると、静まり返っていた観客から、拍手の音が聴こえた。
「霜山寛治!」
「霜山寛治!」
「霜山寛治!」
最初にキスした女の子も、次にキスした兄ちゃんも、染谷将太も、みんなが笑ってそう叫んだ。やがてそれは7800兆人の大きな声になり、地球を震わすほどの大きな拍手が鳴り響いた。
「お前は、霜山寛治!お前は、霜山寛治だ!」
カル竜もそう叫んで泣きながら拍手してくれた。
「霜山寛治!霜山寛治!」
油まみれの会場は、いつまでも僕の名前を呼び続けた。
みんな泣きながらのスタンディングオベーション。会場全体がオイルパニック。僕は泣きながらのビックハリケーン。

「ありがとう、僕は、霜山寛治だ!」

こうして、僕はようやく、自分のことが、本当に好きになれたんだ。
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評価者:ジンガー 評価:10☆ 投稿日時:2016-12-31 03:55:02
最初の乳首で持ってかれました。めちゃ面白かったです。
物語としてもなんか面白くて、どういう話だよどういう話だよと頭の中でツッコミながらも普通に読んでしまいました。

評価者:ドロップ 評価:10☆ 投稿日時:2016-11-24 15:30:54
このネタ最高に面白いです。
最初から最後まで意味が分からないのですが最高に面白いです。
意味不明なのに、文章としてちゃんと成立してる所がスゴいです。